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4th full album “アメジスト” 発売記念インタビュー . Vol.03 / そして「人」へと向かっていくUNLIMITSの音楽

■石島さんもおっしゃっていましたけど、自分達が持っていないものを吸収してそれを構築していく作業だったのが今までなら、今回は自分達の持っているものだけで作っていく作業だったと。

郡島「そうですね。やってくる中で、選択肢は広がったんですよ。それをどう使って自分達らしいものにできるかっていう感じだったのかな」

石島「たぶん、『初期衝動』っていうのも、自分達自身でやることだと思ったんですよ。広がった選択肢をちゃんと咀嚼して、自分達の方法だけでやるっていう。それが原点回帰だと思うし。それをうまくコントロールできるようになったし、ちゃんと自分達が素直に気持ちいいものがわかるようになってきたし、それを出せる精度が高くなってきたんだと思います」

郡島「たぶん、前は不感症になっちゃってたと思うんですよね。『これがカッコいいんだ』って言われたら、それがカッコいいものなんだって思っちゃってたし、自分が気持ちいいって思う前に、『これが気持ちいいんだよ』って言われたら『気持ちいいんだな』って思っちゃってたし。今回はそこに凄く正直にやったんですよね」

石島「前は、広がった選択肢の上にさらに難しい技術を積もうとしていたから。楽曲をシンプルにしたことで、各々が、自分の持っている引き出しの中から出すべきものが凄く見えやすくなったのかもしれない」

■今作に至るまで、各々が、自分が吸収してきたものを整理できた期間でもあったんですかね。

郡島「ああ……前の作品とかを聴き直して、『これはカッコいいけど、自分の中にあるリズムじゃないな』って感じたり、『これは新しいこともやってるけど、自分にシックリくるな』っていう発見はありましたね。それが、自分が気持ちいいものをちゃんと理解するっていうことだったのかもしれない」

石島「確かに、シンプルにするっていうのは、個々にそういうことが積み重なってのことだったのかもしれないですね。……今、話していて思いました」

■そうやってシンプルになった感じが、“リリー”には楽曲にも詞にも特に出ていると思ったんですよね。広がった選択肢の中から取捨選択した上でこれだけシンプルにメロディを聴かせられたっていう意味でも、先ほどもおっしゃった「新境地」なのかな?って思ったんですけど。

清水「私は、<ブルー>っていう言葉を繰り返すところが凄く新しくて、好きだなって思ったんですよね。なんというか……今まで、恐らくUNLIMITSって難しい歌詞が多かったと思うんですよ」

■凄く綺麗な景色をイメージさせるものも多いんだけど、喩えが多かったりしますよね。

清水「そう、そう。比喩が多かったと思うんですよね。だけど、そういうのも突き抜けたというか。歌詞全体の意味合いも凄くいいし、<ブルー>っていう言葉のハマりが凄く気持ちよくて、ロックだなって思えたんですよね」

■歌詞を郡島さんが持ってきた時に一気にメロディや楽曲が浮かんできたとおっしゃいましたけど、そういう、UNLIMITSにとっては珍しい曲の作り方が歌の新しさを引き出した部分もあるんですか?

清水「そうですね。特にAメロとかは言葉数が多いから、言葉に合わせていくことで、ちょっと語りかけていくような歌い方に繋がったかもしれないですね。具体的に誰かに対して語りかけるっていうよりは……言葉を凄く大事に歌う感覚というか。凄く綺麗でメロディアスに歌うよりも、フォークっぽい土臭さが出たのは新しいなって。……自分では、詞から先にできた曲には名曲が多くて。たとえば“月アカリサイレース”とか“七色の記憶”とか、“さよならバタフライ”とか……。だから、“リリー”ができた時に、これはキタ!て思えたんですよね(笑)。それが、前作の『NeON』にはなかったし、過去最速でメロディができたので、それが凄く奇跡的でもあったし、グッときたんですよね。で、実際にそのメロディを弾き語りでメンバーに聴かせたら、すぐにスタジオ入ろうっていうことになって、『じゃあ、やろう』って言って合わせたらすぐにイメージ通りのものになったんですよ。本当に、メンバーに対して全然言うことがなくって(笑)」

■なるほど。でも、たとえば“スターライト”の<さあ行こうこの場所から/君と始めるストーリー>っていうリリックに顕著ですけど、全体的に目の前の人に歌っているような言葉選びの割合が多くなった感じがするんですよ。

清水「ああ、“スターライト”はまずサビができて、そこでライヴをしている光景が浮かんだんですよね。まさに、みんながパーッと手を挙げているような感じで。これは、あんまり苦労しないで作れた曲なんですけど。歌詞も、結構ライヴのことを歌っているイメージなんですよね。やっぱり、ライヴしている時って、自分達も観にきている人達も輝いてるなって思ったんですよね。それで、“スターライト”っていうキラキラした言葉だけが先にあって。そのイメージから作っていった曲で」

■さっき、バンドをまたやろう!ってなった時に、「まずライヴに人に来てもらいたいと思った」とおっしゃっていましたけど、やっぱり、今作の楽曲はライヴをイメージしたり、そこで伝えるっていうことが先にあった上で作っていった曲が多かったんですか?

清水「ああ、それはありましたね。ライヴで聴いてくれる人がどうかな?っていうイメージはハッキリと持って作っていったと思いますね。それは、『夢幻シンドローム』の時にはまったくなかったもので(笑)。あの時は、お客さんと音楽を共有している感覚がまったくなかったので」

■自分のネガや闇を音楽で消化できていればいいっていう。

清水「そう、そう。自分の部屋に引きこもっている感覚だったんですけど。だけど今回は、たくさんツアーもライヴも経験してきて、お客さんの顔を思い浮かべることができたんですよ」

■さっき、郡島さんが「メジャーの契約が切れた時に、自分達のやってきたことには意味がないのかなって思ってしまった」とおっしゃってたんですけど、そこから奮い立てたっていうのは、やっぱり「待ってる人がいる」っていうことを忘れていなかったんじゃないかな?って思ったんですけど。それが自分達の意味だと思えたから、今作の楽曲もライヴの場に向かっていったんじゃないかなって。

石島「うん……(大きく頷く)」

清水「やっぱり、これまでツアーやライヴを回る経験をしてこなかったら、もう辞めていたのかもしれないですね。……これ、いつだったかな。なんかの打ち上げの時に、郡ちゃんが『またやろうと思ったのは、やっぱり待ってる人を裏切りたくなかったからなんだよね』って言ってたんですよ。それを聞いて『ハンパねえ……』って思ったんですよ(笑)」

郡島「………そんなこと言ってた?」

清水「え、忘れたの!?(笑)」

■せっかくの名セリフなんですけど(笑)。

郡島「いやいや(笑)、でも、それが本当の気持ちだったんだと思います。辞めようってほぼ心を決めていたのもきっと、待ってくれている人のことに頭がいかないくらいの状態になっちゃっていたからで。……やっぱり、裏切りたくないって思ったんですよね」

石島「やっぱり、バンドを辞めるか辞めないかっていう話になった時に、『じゃあ、辞められないと思っている自分って何なんだろう?』って考えたら、やっぱりそこ(各地で待ってくれている人)だったんですよね。今回のラストに入っている“ひこうき雲”の詞は僕と郡島の共作なんですけど、まさに、待ってくれている人達の顔を思い浮かべて書いた曲で。『北海道だったらこの人がいて、青森だったらこの人がいて……』って、順番に名前を書いていきましたもん。それくらい、自分にとってはその人達が大事なんだって思えたんですよ」

大月「僕もそれは凄く考えて。だけど、待ってくれている人がいればバンドはどこまでも行けるのか?って言ったら必ずしもそうとは限らなくて……その悩みはこれからもあるのかもしれないんですけど、ただ、バンドをやるんだ、となったら一番大事にしたいと思ったのは、やっぱりライヴだし、向こう側に待ってくれている人だと思ったんですよね。だから、今回のアルバムもライヴを考えて作っていく意識は強いものになったと思うんですよ」

■“リリー”の<もう一度帰ろう/あの場所に帰ろう>っていうところは、待ってくれている人がいる場所に戻っていく自分達にも重ねて書いた部分はあるんですか?

郡島「あ、それは、気づかなかったですね(笑)。これは本当に私の個人的な詞なんですけど、思い浮かべたのは、小学校5年生の時なんですよ。後ろの席に座っていた子が亡くなってしまって、その子のことを歌ったことなんですよね。みんなが校庭に集合させられて、その時に見上げた空の綺麗さと、それと相反する悲しい気持ちを<ブルー>っていう言葉の繰り返しに込めてるんですよ」

■そう考えると、“君に読む物語”も凄くキーになる曲だと思っていて。<ありがとうと伝えたくて>っていう言葉を、これだけ普遍的で人を選ばないロックバラードにできたのは、UNLIMITSにとって大きいんじゃないかと思うんですよね。

清水「そうですね。これは、昔の自分だったら絶対に書けない曲だったと思います。まさか、サビの冒頭で<ありがとう>っていう言葉を恥ずかしげもなく書けるようになるとは……っていう感じなんですけどね(笑)。けど、これが今の素直な気持ちだったし、歌いたかったんですよね」

■過去のインタヴュー――トランキライザーの時だったんですけど、郡島さんが「I love Youみたいな言葉を今の自分達が歌うのはまだ恥ずかしいけど、それくらいありのままの言葉を歌えるっていうのは凄くカッコいいし、それがある意味では最終目標だと思う」っておっしゃってたんですよ。

郡島「はい、はい、はい(笑)」

■ここで歌われている<ありがとう>っていうのは、「I Love You」ではないけど、ありのままの言葉ですよね。

郡島「ああ……そうですね。うん、いいと思います(笑)」

■一度バンドの終わりっていうものを考えた時期があったからこそ、ここでありのままの素直な言葉を歌えなきゃ嘘になっちゃうっていう感じだったんでしょうね。

清水「ほんとに、そういうことありのままの言葉を言える人ってカッコいいと思うから。照れ臭い言葉でも変にカッコつけないカッコよさというか。それが“君に読む物語”にはハッキリ出たなって思うし……たとえば“アメジスト”みたいに短くて暗い曲を1曲目にするっていうのも最初は頭になかったんですよ。だけど、レコーディングの時にドラムテックをやってくれている方が『これ1曲目じゃない?』って言ってくれて。こうしてまたバンドをやるんだってなった時に、それくらい振り切って大丈夫だって思えたんですよね」

■“スターライト”の<今という一瞬を見逃さないでいよう>っていう詞も、そういう想いが出てますよね。「終わる」っていうことをイメージしたバンドだからこそ、今輝ける場所が大事なんだと。

清水「ああ……それも、まさにライヴに向かって書いた言葉なんですけど、本当にその通りだと思います」

■で、ラストが“ひこうき雲”になっているのは凄く素敵だなって思うんですよ。ひこうき雲って、軌跡だし、足跡じゃないですか。<ひこうき雲 全部集めて/君が住むその街に/届けるよ>っていうのは、挫折も何もかもを自分達の血肉にして音楽を届けるんだっていう強い想いが表れているなって。

郡島「………その解釈はめちゃくちゃ素敵だし、気づかなかった。いや、これは言われてみて気づきましたね」

■言われてみて気づくっていうことは、それくらい素直な想いが書けたっていうことなのかもしれないですけど(笑)。

清水「確かに、ひこうき雲って足跡ですもんね」

郡島「そうですね。きっと、これまでの自分達をちゃんと持ったまま行くっていう気持ちがあったのかな」

■しかも、その歌をこれだけストレートな陽性のメロコアにできたのは、2002年に結成したバンドの原点回帰をまさに表しているなって感じたし、このアルバムを象徴してるなって。

清水「確かにそうですね。原点の原点ですよね。当時からメロコアキッズだった自分がハッキリ表れている曲で。アレンジもそういうシンプルなものになっていると思うし。もしかしたら、UNLIMITS結成前の原点まで飛んでいる曲かもしれない」

郡島「こうして見ると、“ひこうき雲”の詞もそうなんですけど、やっぱりすべてライヴの場に凝縮されていくなって改めて思います」

清水「うん、うん。本当にそう思う」

■UNLIMITSが登場した当時って、女性のヴォーカルでメロディックパンクをやっているバンドっていなかったと思うんですよ。

清水「うん、確かに全然いなかったですよね(笑)」

■だから、当時は「ガールズヴォーカルのパンクロック」っていうのがこのバンド最大の強みだったと思うんですけど、それ以上に「今までやってきた道程自体が唯一無二の武器だ」って言えるようになった作品なんだろうなって思います。

清水「本当にそうですね。今まで経てきたことがあったから作れたアルバムだなって思います」

大月「うん、そう思ってもらえるようなアルバムを『ガールズバンドのレーベル』と掲げているJun Grey Recordsの第一弾としてリリースできるのは光栄なことだと思ってますね。………Junさん、聞いてます? 俺、今凄くいいこと言いましたよ」

Jun「……ん? あ、ああ、聞いてたよ!(笑)」

■ははははは! 以上です。ありがとうございました!

一同「ありがとうございました!」

INTERVIEW BY 矢島大地(MUSICA)